東浦家の休日













































































今日は休日。
あなたの彼氏である深尋とその兄の大護が、東浦家に遊びに来ています。

「だから結人くん! もうちょい手加減してって言ってんのにー!」
「だーかーらオレのが強いんだっていい加減認めろよ大護ー!」

偶然居合わせた弟の結人は、大護とすっかり意気投合して
さっきからずっとゲームで遊んでいます。
『ずっと結人に付き合わせちゃって、いいのかなあ』とあなたが気にしていると、

「お前の弟よりも、大護のほうが本気で楽しんでるな」

あなたの気持ちを察したのか、隣にいる深尋がそう言って微笑みました。
ひとしきり遊んだあと、満足したようにゲームの電源を切る結人。

「たーのしかったー!」
「だなー。結局、結人くんには勝ち逃げされちゃってるけど」
「そんじゃまたうちに遊びにくればいいじゃん! そんでもっかいやろ!」
「おっけ。じゃあそん時までに練習しとくわ」
「おっし約束な! てか大護ってなんか年上って感じしねーなー」
「えー、それちゃんと褒めてくれてる?」
「や、褒めてる褒めてる! 話しやすいなーって。
 だってうちの兄ちゃんなんかさあ、
 すぐ叩くし人使い荒いし、
 ちょっと騒いだだけで『うるせえ!』って怒鳴るし。
 そうやって言う兄ちゃんの声のほうがデカいんだって言ってもきかないし……」

その言葉を遮るように、ガチャリとドアの開く音がしました。

「呼んだか?」

静かな声とともに姿を見せたのは、兄の崇。

「にっ、兄ちゃん……」
「さっきから騒がしいんだよお前は……ん?」

リビングに入ってきた崇は、ソファに座っている深尋と大護に目を留めます。

「チビの男と……もうひとりは?」

不審げに眉を寄せる崇を見て、大護が勢いよく立ち上がりました。

「あっ、もしかして結人くんたちのお兄さんですか!?」
「ああ……」
「すみませんーお騒がせしちゃって。
 初めまして、永江大護です! 
 うちの弟がいつもお世話になってますー」
「俺は世話した覚えないですけど」

特に興味もなさそうにキッチンへ向かおうとする崇。
しかしそれを気にもとめず、大護は崇の前に立ちはだかりました。

「あ、これオレの名刺っす!」
「……」
「やー、いつか来たるべき時のためにと思って作っといたんですよ。
 初めましてのご挨拶でソソウがあっちゃいけないと思って。
 思ったより早く渡せて良かったー! 
 改めてよろしくお願いします!」

笑顔で差し出されるド派手な名刺を前に、崇がボソリと呟きます。

「……チッ、そこそこいい配色センスしやがって」
「え?」
「なんでも」
「今、舌打ちしました? もしかしてそれが素だったりして?」
「……いや」

気まずそうに咳払いをする崇と、動じる様子もなくニコニコしている大護。
その様子を言葉もなく見守っているあなたと深尋、そして結人。

「大護すげえ……兄ちゃんと渡り合ってる……」

思わず漏れた結人の呟きをよそに、大護は崇に喋り続けます。

「うちの弟のこと、よろしくお願いします。
 ちょっと難しいトコもありますけど、可愛いヤツなんですよ」
「まあ、それはお互い様なんで。
 うちのもたまに面倒くさいところあるから」
「え、そうですか? 全然そんなことないと思いますけど」
「猫かぶってるだけですよ」
「そうかなー? すっげぇいい子ですよね、妹さん」
「へえ……ならいいんですけど」
「それに可愛いし!」
「おい、お前が可愛いって言うな。付き合ってんならまだしも」
「うはっ、やっぱそっちが素かあ」
「……」
「兄っていう立場同士、仲良くしましょっ。ね!」
「……うぜえ」

取り繕うことをやめたように、崇はイライラした様子で背を向けました。

「あれ、名刺受け取ってくんないんっすか?」
「名前なら覚えた」
「えっ!? や、名前覚えてもらえたのは嬉しいんすけど、そうじゃなくて! 
 せっかく作ってきたのに!」

崇は大護を無視してリビングの出入り口へと向かいます。

「ちょっと出かけてくる。おいチビ」

呼ばれたあなたがそばに行くと、崇が耳元に顔を寄せてきました。

「ミヒロのほうは許してやるが、あのでけえのはもう連れてくんな」

あなたが何か言う前に、崇は結人へと視線を移します。

「それから結人」
「な、なにっ?」
「……あとで覚えとけよ」
「は……い……」

みるみる青ざめていく結人の顔を見て、フンと鼻を鳴らしてから
崇はリビングを出ていきました。
それを見ていた大護が大きな声で笑います。

「あっはっは、おもろい兄ちゃんだなあ」
「なんで笑ってられんだよ大護ー! 
 どうしよう……兄ちゃん帰ってきたらオレ、もう生きてられないかも……」
「んなわけないって! すっげえ仲いいじゃん、3人とも。
 いいなー。オレもあのくらい深尋といっぱい喋りたいんだけど。
 な、みーちゃん?」
「……俺に振るな」

東浦家と永江家の兄弟。
それぞれのやり取りを見ながら、あなたは
『同じ兄弟でも、いろんなタイプがあるんだなあ……』
なんて、ぼんやりと考えるのでした。


END